更新日:2023年2月6日
少子高齢化や核家族化が進む現在、ご高齢の人だけで暮らしているという世帯も多く見られます。ただ、平均寿命が延びた現在であっても、人はいつかは必ず旅立つことになります。そしてその旅立ちの際には、「片付けられなかったたくさんのもの」が残ることになります。
ここではこの「片付けられなかったたくさんのもの」を減らすために、「終活」に焦点を当てて、
- 専門家でも苦慮する「残された家」の処遇
- 終活を実践している人の割合
- 終活を行わないことのデメリット
- 親に終活を切り出すときのポイント
- それでも、最後に専門家を頼った方が良いケースとは
について、終活カウンセラーが解説していきます。
「生前整理」についてはこちらの記事もご覧ください。
目次
知識がある人間だって苦慮している! 残された親の家について
「親と終活」についてお話しする前に、まずは少し私の話をさせてください。
私は2002年に母を、2022年の12月初旬に父を見送りました。なお、私自身は2人姉妹なのですが、父・母・姉は石川県で長く暮らしていて、私は愛知県に住んでいます。
上でも述べた通り、私は終活カウンセラーの資格を持っています。また以前葬儀会社に勤めていまして、相続を資格範囲に含む民間の法律資格も持っています。
父は慢性的な病を患ってはいたものの、容体が急変したのは亡くなる2週間ほど前のことでした。最後の1週間程度は入院していましたが、それまでは自宅で過ごしていたうえ、それ以外にも彼の両親(私にとっては祖父母)の持っていた家もそのまま残していました。
つまり、一切の終活をすることなく、家も土地も残したまま亡くなったわけです。現在私はその手続きに追いに追われていて、幾度となく石川県に戻っている状況です。
終活カウンセラーとしての知識がある状態であってさえ、この「残された家」「終活をまったくしていない人の後始末」は非常に大変で、時間がいくらあっても足りません。
逆に、遺産を受け継ぐ人の方にまったく知識がなかった場合でも、亡くなる人がきちんと終活をしていれば、この「後始末」は格段に楽になります。実際、「父が事業をしていたが、施設に入所する前にすべての書類作業をしておいてくれた。事務所も空っぽになっていて、パソコンで財産をリスト化してくれていて、権利証の場所も記してあった。売却手続きこそ自分たちで行ったが、本当にまったく手がかからなかった」という人もいます。
遺産を受け継ぐ人の知識の多寡よりも、遺産を渡す側になる人の前準備の方が、「その後の整理」において重要な意味を持ちます。
「専門家としての知識がある人間であっても対応は苦慮するので、そうでない場合はなおのこと」と考えて、親に終活を持ちかけるようにしてください。
終活、認知度は高いものの実践している人は少数派
このように非常に大切な「終活」の知名度は、非常に高いといえます。
ターゲットやアンケートによって多少の違いはありますが、ここでは株式会社林商会がとったものを取り上げていきましょう。これは40代以上の人296人を対象としたアンケートであり、40代:50代:60代以上の比率はほぼ1:1:1です。
これによると、終活の認知度はなんと96パーセントに達しているということです。ほかのデータでも96パーセントを超えていましたから、終活という言葉とその意味の認知度は極めて高いものだといえるでしょう。
しかし、このなかで実は、「終活を実際にしている」と答えた人の割合は非常に少ないことが示唆されています。
終活を実際にしている人は、20パーセント程度、つまり5人に1人程度にすぎません。
その理由で一番多いのは「まだやらなくてよいと思っているから」であり、これが全体の43パーセントを占めています。上でも述べたように、このアンケートは若年層を除外してとられたもので、自身あるいは自身の両親が人生の終焉機に入っている人をターゲットとしたものです。それでも、全体の4割を超える人が、「まだやらなくてもいい年齢だと思っているから」と答えているわけです。
終活に関する統計はいくつかあり、それぞれで多少数字が異なることはすでに述べた通りです。しかし確認できるかぎりの統計では、すべて、「終活という言葉の認知度は極めて高いが、それに実際に取り組んでいる人の数は少ないこと」が示されています。
これを読んでいる方のご両親の多くも、おそらくはまだ終活に取り掛かってはいらっしゃらないのではないでしょうか。
出典:
PRTIMES(株式会社林商会)「【みんな終活してる?】終活の認知度は9割以上。しかし実際に行動している人はたった2割?!終活をしないとどうなる‥‥? (終活に関する意識調査)」
終活を「しない」ことによるデメリット
「終活をすることのメリット」は非常によく取り上げられますし、またこのピックアップ自体は非常に有用なものです。しかし上記を合わせて考えていくと、終活を「しないこと」のデメリットにも焦点を当てるべきであることが分かります。
ここでは、終活を「しない」ことのデメリットについて取り上げます。
・連絡するべき相手が分からなくなる
・財産がどこにあるのか、どれくらいあるのかが分からず、もめごとの原因になることも
・整理されていない家で過ごすことで、けがを負うリスクが増える
・家族にかかる負担が非常に大きくなる
一つずつ見ていきましょう。
連絡するべき相手が分からなくなる
親と親しく付き合っている人や、親とは関わりがあるけれども自分とは関わりがない親戚の連絡先を、細かく把握している人はそれほど多くないものと思われます。別居していればその傾向はより顕著でしょう。
このような場合、「親が亡くなったらだれに連絡すべきか」が分からなくなります。本人が残していた携帯電話のアドレス帳や履歴からある程度探ることは不可能ではありませんが、その人とどれくらいの親密さで付き合っていたのかを把握することは困難です。
そのため、「この人に連絡すべきだったのに連絡できなかった」「後になって、『なぜ知らせてくれなかった』と言われた」という状況になることもよくあります。
財産がどこにあるのか、どれくらいあるのかが分からず、もめごとの原因になることも
「財産があるのか、あるとすればどれくらいなのかが分からず、遺産分割の話し合いがなかなか進まない」ということはよくあります。なかにはお子さんがまったく知らなかった財産があった……というケースすらあります。「本当は財産を隠しているのではないか」「勝手に処分したのではないか」と、疑心暗鬼にとらわれることもあるでしょう。
これは残された家族を混乱させるだけでなく、場合によっては家族同士の不和をも招く原因となります。
さらに困るのが、「マイナスの遺産が隠されていた場合」です。
財産の受け継ぎ方は、「単純承認」「相続放棄」「限定承認」があります。「単純承認」とは、故人のプラスの財産もマイナスの財産もそのまま引き継ぐことで、特に手続きをしないと(猶予期間は3か月)このかたちをとることになります。「相続放棄」は、プラスの財産もマイナスの財産も引き継がないとするものです。「限定承認」は、プラスの財産内でマイナスの財産を受け継ぎ、そうでないものは相続しないとする有利な形式ですが、手続きが非常に面倒であるというデメリットがあります。
財産の管理をしていないと、残された家族が判断に迷うことがあります。また場合によっては借金を背負うことにもなりかねません。
整理されていない家で過ごすことで、けがを負うリスクが増える
終活は、亡くなった後のためだけに行うものではありません。より良い生活を送ってもらうことにも寄与するものです。
整理されていない家は物が多く、転倒による危険性が高い状態にあります。若いときには気にならなかった段差などでもつまずきやすくなりますし、またけがをした場合の治りも遅くなります。上から物が落ちてきて、頭を打つこともあるかもしれません。
終活は、その過程で「家の整理整頓」「不用品の処分」の工程が含まれます。終活を行えば物が減りけがのリスクも下げられますが、終活をしないとこのような「けがをしやすい家」が出来上がってしまいます。
家族にかかる負担が非常に大きくなる
終活をしていないと、家族にかかる負担が非常に大きくなります。車や家などの大物が残された場合、それを処分するにはさまざまな手続きが必要です。しかもこの手続きのなかには、日を置いてでなければできないものもあるため、「忌引き休暇で1週間休んだが、その後にまた手続きのために会社を休まなければならない」というケースもあります。
上記で話したように、遺産の目録がなければそれを作るところから始めなければなりません。これに平行して、土地の登記名簿を確認したり、日用品を始末したり……といった作業が差しはさまれることになります。
「遺産を受け継ぐ人間全員が仕事をしている」「法定相続人全員が県外に住んでいる」という場合は、時間やお金を使って何度も整理に通わなければならなくなり、精神的にも非常に疲弊します。場合によっては、仕事や家庭生活に影響が出ることすらあります。
親に終活を進めよう~そのときの切り出し方
このように、終活をしていないことによるデメリットは非常に多くあります。
では、どのようにして親に切り出せばいいのでしょうか。
1.「近くて、少し遠い人」の訃報を受けて切り出すとスムーズに進みやすい
あまり取り上げられることがありませんが、この方法はおそらくもっとも容易な切り出し方かと思われます。
たとえば、「この間友達の親御さんが亡くなってね、その時の手続きが大変で……」などのように切り出すのです。
このときのポイントは、あくまで、「近くて、少し遠い人」の訃報を契機にする、ということです。
ご両親と近しい関係にある人(直接の親戚など)の場合は、ご両親自身も強いショックを受けていると思われるので、切り出すのは不適当でしょう。
2.「健康に長生きしてほしいから」というかたちで切り出す
上でも取り上げましたが、終活は、「亡くなった後の手続きを楽にするためのもの」であると同時に、「今現在の家を過ごしやすくするためのもの」でもあります。
「このままだとけがをしやすいから」「転倒してしまったときに危ないから」などのように切り出しましょう。お子さん(ご両親にとってのお孫さん)をよく連れていくのであれば、「子どもがけつまずくと危ないから」などのように話し始めるのもよいかもしれません。
このやり方ならば、終活に対して後ろ向きな思いを抱えている人でもポジティブにとらえやすいでしょう。
3.「一緒にやろう」という姿勢でいると、親も話を聞いてくれやすい
ゴミ屋敷を解消するための方法・スタンスとして非常に重要なのは、「一緒にやろう」という周りの働きかけだといわれています。これは終活においても同じです。1人(あるいは年老いたご両親2人)にだけ整理をゆだねるのではなく、「私もやるからお母さんも一緒にやろう」「話しながら整理していこう」と働きかけるのです。
また、このやり方には大きなメリットもあります。それが、「一緒に片付けることで、不明点も明らかにできる」という点です。きちんと終活をした人であっても、その後片づけ段階において、かなり高い確率で「この書類は何?」「この絵画は何?」といった疑問が浮かんできます。
しかし事前に一緒に片付けをしていけば、分からないことが出た時点ですぐに本人に確認することができます。
終活をしていても、終活をしていなくても~最終的にはプロの手を借りるのが良い
「必要最低限のものしか残っていない状態になるまで整理が終わっている家」「権利証などはしっかり残っていて、家の中はすべて物がない」というような終活成功例に当てはまる場合は、親御さんを見送った混乱のなかでも、自分たちだけで手続き・処分をすることが容易です。
しかし、「急に亡くなったので終活をまったく行っていない」「終活を始めたが、それでも荷物が残っている」「一軒家であり、家電製品がそのままになっている」という場合は、プロの手を借りた方がよいでしょう。家電製品を一つひとつ処分するのは非常に大変だからです。
また、生前整理というかたちで、事前に業者に相談しておくことでもスムーズに進められます。
終活・生前整理のご相談はこちらからどうぞ(※遺品の整理のお手伝いもできます)
本記事の監修者
鍋谷萌子(ライター)
終活カウンセラーの資格を持つ、元葬儀会社勤務のライターです。自分自身が「遺された家」の片付けを行った経験も元に、分かりやすく、正しいデータを紹介しながら、ゴミ屋敷の問題や空き家のトラブル、遺品整理・生前整理についての解説を行っていきます。