更新日:2023年9月6日
親が亡くなったとき、通常は遺産を相続し、残された財産や家財を整理する人が多いことでしょう。
しかし、残された遺族が「遺産を相続したくない」と思ったときは、相続放棄(被相続人(故人)の残した財産の全ての相続を拒否すること)をすることができます。
ここで言う全ての財産とは、プラスの財産(現金や不動産)もマイナスの財産(いらない土地や家屋、借金)も含めて、です。
しかしその場合、残された家や家財などの遺品整理はどうすればよいのでしょうか。
結論から言うと相続放棄した場合は遺品整理を行ってはいけません。
なぜなら、遺品整理を行うことで法的に相続人が相続したものとみなされ、相続放棄ができなくなってしまうからです。
※このことを「法定単純承認」と言います。
では、相続放棄をしたら家の片付けを一切しなくてもいいのでしょうか。
また、「思い出の品」は受け取ることができるのでしょうか。
自分がやらない場合、残された遺品をどのように処分をすれば良いのかわからないという方も多いかもしれません。
このように、相続放棄と遺品整理の関係性や、相続放棄する場合の注意点を知らない方のために、今回は相続放棄のおこない方や注意点について詳しく解説していきます。
目次
相続放棄について
はじめにお伝えしたように相続放棄とは、被相続人(故人)の残した財産の全ての相続を拒否することのことを言います。
この財産というのは、現金や不動産、投資信託や積立金、骨董品など経済的に価値のある物はプラスの財産とし、車や貴金属、ブランド品なども含まれます。
しかしすべての財産にはマイナスの財産も含まれます。
マイナスの財産というと借金を思い浮かべる方が多いと思いますが、家や車のローン、家賃や水道光熱費、通信費などの未払い金や、税金や保険料などの滞納金などもあげられます。
これらは通常、亡くなった方の配偶者や子供などの相続人が相続しますが、相続放棄をした場合、最初から相続人でなかったことになり、他に相続人がいれば残った人だけで遺産を分け合うことになります。
相続放棄をするシチュエーション
相続放棄をすると一切の財産を受け取れなくなります。
では相続放棄をしたほうがよいシチュエーションとはどんなものなのでしょうか。
わかりやすく例をあげてみます。
ケース1.借金や負債の返済を免れるため
故人に借金が残っていた場合、遺産相続をすると、故人の残した借金やローンなどの返済を代わりに受け継ぐ形になります。
また、故人が連帯保証人になっていた場合も相続人が保証債務を引き継ぐことになります。
しかし相続人が何人かいた場合、例えば自分が相続放棄をしても親族や自分の子どもなど、次の順位の相続人に相続権が移動します。
もし相続人全員が相続放棄をしたとしても、借金や保証債務が消えるわけではないため注意しましょう。
ケース2.財産分与について親族間で揉めるのを避けるため
相続放棄をした人は遺産分割協議に加わる必要がなくなるため、揉め事やトラブルを回避することができます。
例えば以下のようなケースです。
- 遺産が少ないので話し合いや手続きなどの面倒を避けたい
- 親が事業をしていたため、それを継承する特定の人に相続を集中させたい
- 海外など遠隔地に住んでいるため、手続きや話し合いの手間を省きたい
など。
相続放棄は借金がある時だけではなく、相続の必要がないと思えば誰にでも行うことができます。
注意!相続放棄の手続きの前に確認したいこと
相続放棄を選択する前に、まずは故人の資産をすべて確認しておく必要があります。
できれば生前に把握しておくか、エンディングノートや遺言状などがあればわかりやすいですが、急に亡くなった場合など、残された遺族が資産がどんなものなのかわからないということもあります。
プラスの資産だけでなく、遺族が知らない借金や負債を抱えているケースも。
特にクレジットカード会社や消費者金融に借金がある場合、返済が滞ったときに督促状が届くので、亡くなったすぐ後には気付かないこともあるでしょう。
個人間でのお金の貸し借りの場合も、書面などで残していない限り把握するのは難しいです。
プラスの財産については不動産や骨董品、貴金属などの『個人では価値がわかりにくいもの』の場合、査定しなければプラスなのかマイナスなのかがわかりにくく、判断が難しいでしょう。
また、以下のように被相続人の死亡によって支払われるお金は、相続財産に含まれません。
- 死亡保険金
- 死亡退職金
- 遺族年金
- 未支給の年金(被相続人に支払われる予定だった年金)
ちなみに、相続放棄をしたとしてもお墓や位牌については、祭祀承継者(代々受け継がれている「祭祀財産」を承継し、祖先の祭祀を主宰する者)が承継することになっています。
相続放棄の前後にやってはいけないこと
以下のことを相続放棄の前や相続放棄の申請後にやってしまうと、相続放棄が無効になってしまう場合があるので注意が必要です。
- 遺品の処分
残された遺品を勝手に処分してしまうと、その財産を相続する意思があるとみなされ、相続放棄をすることができなくなります。 - 相続財産の隠匿・消費
遺品の中の現金などを勝手に使ったり、隠したりしても相続の意思があるとみなされて、相続放棄は無効になります。
やってはいけないことの具体例は以下の通りです。
- 被相続人の預貯金の使用、解約、名義変更
- 実家の解体や売却(修理など保存目的はOK)
- 賃貸アパートの解約(家賃の延滞による一方的な解約はOK)
- 家具や家電などの遺品整理(ただし価値次第)
- 車の処分(ただし価値次第)
- 被相続人の資産からの債務(借金や税金)の支払い
- 入院費を相続財産から支払う
- 携帯電話の解約(専門家へ相談)
相続放棄のデメリット
相続放棄には以下のようなデメリットもあります。
- 一度相続放棄をすると撤回できない
- 相続放棄をするとプラスの財産ももらえなくなる
- 生命保険金の非課税枠が使えない
- 相続放棄するための手間と費用がかかる
- 手続きの期限は3カ月以内
一度相続放棄を行うと、撤回するのは認められていません。
そのため、手続き後に多額のプラスの財産が見つかっても、それを相続することはできないのです。
さらに故人の生命保険を受け取った場合、相続放棄をしているとすべての金額に対して課税されます。
相続人が生命保険金を受け取った場合、相続人1人に対し500万円の非課税枠が適用されますが、相続放棄をした場合は生命保険金の非課税枠は適用されません。
そのため、生命保険金の額によっては相続税が発生する可能性があります。
そして相続放棄をするためには家庭裁判所での手続きが必要です。
専門家(司法書士・弁護士)に依頼するには費用がかかりますし、戸籍謄本等の必要書類を集めるのも手間が発生します。
また、相続放棄の手続きは相続人であることを知ってから3ヶ月以内とされており、早めに判断をしなくてはなりません。
相続は「単純承認」「限定承認」「相続放棄」の3つがある
相続放棄の手続きをする前に、それ以外の選択肢を考えてみましょう。
法定相続人は「単純承認」「限定承認」「相続放棄」の3つの相続から選ぶことができます。
相続放棄以外の2つの相続についてご説明します。
単純承認とは
単純承認は、プラスの財産もマイナスの財産も全て相続することです。
例えば故人の財産が1,000万円で借金が3,000万円あった場合は、1,000万円受け取ることができますが3,000万円の借金も故人の代わりに返済しなければなりません。
限定承認とは
限定承認とは、プラスの財産の範囲でマイナスの財産を引き継ぐ相続方法のことです。
つまり、相続財産を超える債務は相続しなくて済むのです。
先ほどの故人の財産が1,000万円で借金が3,000万円である場合、相続人が限定承認を選択すれば、返済する借金は故人のプラスの財産である1,000万円のみ。
残りの2,000万円に関しては債権者は弁済を求めることができません。
相続放棄の手順
お伝えしたように、相続放棄の手続きができるのは、被相続人が亡くなったことを知ったとき(自分が相続人であることを知ったとき)から3ヶ月以内です。
3カ月を過ぎてしまうと自動的に単純承認を選んだことになってしまいます。(限定承認の手続きも3カ月以内)
相続放棄の手順は以下の通りです。
【必要書類】
- 相続放棄申述書(最寄りの家庭裁判所や裁判所のホームページからダウンロードで入手可能)
- 戸籍関係の書類(被相続人との関係性で異なる)
【手順】
- 揃った書類に収入印紙800円分(手数料)と郵便切手(連絡用)を添付する
- すべてを被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所へ提出する
- 家庭裁判所が書類を確認すると「照会書」が届き、これに回答して「相続放棄申述受理通知書」を受け取れば手続きが完了
- 債権者へ相続放棄をしたことを伝える
相続放棄と遺品整理の関係
相続放棄を考えている場合や、放棄をした後の遺品がどうなるのか気になりますよね。
遺品については以下のように定められています。
- 新たな相続人が現れるまで遺品の管理義務がある
- 相続放棄後に遺品を隠匿・消費などした場合には、相続放棄はなかったことになり、遺産を承継しなくてはならない
- ほとんど経済的価値のないものや、多少は価値があっても形見分け程度のものならもらってもOK
相続放棄後の遺品の管理義務とは
相続放棄をした場合、他の相続人や特別縁故者(特別に相続を受ける権利が発生した人)がいない限り、遺品については「自己の財産におけるのと同一の注意」で管理をする義務があります。
例えば故人の家が空き家である場合、庭木や雑草の手入れをしたり、ガスや水道などの管理をしたりしなければなりません。
特に更地や農地、山林などの定期的なメンテナンスが必要な土地の場合、荒れてしまわないように注意が必要です。
相続放棄したからといって管理を怠ると、害虫が大量に発生したり草木が隣家などにはみ出たりして近隣の迷惑になることも考えられます。
もし近隣に被害が出た場合は損害賠償責任もあるので注意しましょう。
遺品整理と形見分けの違い
相続放棄をする予定、もしくは相続放棄をしたという人は遺品整理をしてはいけないとお伝えしました。
しかし、形見分けについては「経済的価値のないものや、多少は価値があっても形見分け程度のものならもらってもOK」と定められています。
では、遺品整理と形見分けの線引きとは何なのでしょうか。
遺品整理 | 形見分け | |
内容 | 故人の遺したすべての品物を、残すものと処分するもの、捨てるものに分けること | 故人が遺した思い入れの深い品を、親族や知人友人に贈ること |
品物の例 |
プラスのもの(不動産・現金・預貯金・有価証券・車・骨董品・美術品など) |
愛用していた時計やアクセサリー、ペン・写真・美術品など |
形見分けは品物の価値に関係なく、故人が愛用していたものや、見たら故人を思い出すようなものです。
もし相続放棄をしたとしても価値のないものであれば形見分けを行うことができますが、「価値のない物」の判断は自分では難しいこともあります。
以下に例をあげてみます。
例①
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例②
⇓
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※ただし、遺品の管理を自分で判断するのは難しいため、迷ったときは処分などをする前に専門家(弁護士など)に相談することをおすすめします。
相続放棄をした後やること
相続放棄をしても、次の相続人が決まるまでには「管理責任」があるとお伝えしました。
では、次の相続人が決まらない場合、どうすればよいのでしょうか。
例えば相続人に当たる人が全員相続放棄をしたとします。
その場合、放棄した人などが家庭裁判所に相続財産管理人の選任を申し立て、その管理人に相続財産の管理を引き継ぐという手続きをします。
※令和5年4月1日に相続財産管理人は「相続財産清算人」へ名称が変更しました)
相続財産管理人とは
相続財産管理人とは、法定代理人として「相続財産(遺産)を管理する業務を行う人」のことで、一般的には弁護士や司法書士が選ばれます。
相続管理人が必要となるのは相続人のいないことがはっきりしているときや、相続人全員が相続放棄をしたとき。
相続放棄をする人や利害関係者が家庭裁判所に選任の申し立てを行うことで、家庭裁判所が相続財産管理人を選任します。
なお、この手続きは多くの書類が必要になるため、弁護士や司法書士に依頼するのが一般的です。
相続管理人は相続人に代わって相続財産の管理を引き継ぎ、資産の売却、相続財産の管理、借金などの精算を行う権限が与えられます。
しかしここで注意したいのが、予納金です。
予納金は、相続財産管理人が選任された時に家庭裁判所に納める費用で、一般的には30万円~100万円ほど。
これは相続財産管理人が職務を行うための経費、費用や報酬のことです。
相続財産管理人の活動経費や相続財産管理人への報酬は、相続財産の中から出されますが、なかには相続財産が少なく、活動経費や報酬がまかないきれないこともあります。
そうした場合に備えて、申立人があらかじめ納めておくのです。
相続放棄の際に相続財産管理人を選任したほうがいい理由
相続財産管理人を選任したほうがよい理由は以下の通りです。
- 家の劣化や中のモノの管理をしなくて済む
- 賃貸の場合など、周囲に迷惑がかからないようにするため
遺産を引き継ぐのが嫌で相続放棄をしたにもかかわらず、他に法定相続人がいない場合は相続放棄をした本人が管理する必要があります。
例えば「居住していない故人の家屋や土地を管理する」というようなケースです。
誰も住んでいない家は劣化が早いですし、ごみ屋敷のような家の場合、誰かが管理しなければ近隣の家に迷惑をかけることになるかもしれません。
相続財産管理人を選任しておけば、管理を引き継ぐことができます。
また、個人の住んでいた家が賃貸だった場合、相続放棄をしたからといって遺品整理を行わなければ、アパートの管理会社や大家さんが困ることになるでしょう。
それを避けるためにも相続財産管理人は選任したほうがよいと言えます。
相続放棄時の遺品整理まとめ
相続放棄を考えている、または相続放棄をしたあとの遺品整理の注意点をまとめてみました。
- 遺品の処分、隠匿、消費をすると財産を相続するものと判断される
- 価値のないものであれば形見分けとしてもらってもよい
- 相続放棄の手続きができるのは自分が相続人だと知ってから3カ月以内
- 相続放棄をしても新たな相続人ができるまでは財産の管理義務がある
- 相続人がいない場合は相続財産管理人の選任を申し立てる
基本的に、相続放棄をするとなれば故人の残した財産や遺品などは触れないと考えてよいでしょう。
価値のない形見分けならもらうことができますが、個人で価値のある・なしを判断するのは難しいケースもあります。
そのようなときは弁護士などの専門家に相談したほうが安心です。
また、相続放棄をしても新たな管理者ができるまでは財産を管理する義務が発生します。
もし、故人が住んでいた家がごみ屋敷であっても、相続放棄したからといって掃除しなくてもよいことにはなりません。
相続財産管理人を申し立てればごみ屋敷の管理は引き継げますが、費用は発生するため注意しましょう。
このように空き家の整理や遺品整理でお困りの際には『遺品整理業者』へ相談するのも一つの方法です。
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2023-07-09
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